駅舎正面、向かって右側の三角屋根の下の貴賓室には独立した車寄せがある。ステンドグラスは貴賓室の中ではなく、車寄せ天井に入れられている。あまり、例をみない、珍しい使われ方である。
ほぼ正面四角なステンドグラスを、注意深く見ると、日本の日の丸が意匠されていることがわかる。
使用されている硝子は、型ガラスと不透明ガラス(オパルセントグラス) で、緑色を基調に、黄色、青色の色相が真ん中乳白色をとり囲み、乳白色の中心に赤を置いて引きたたせ、日の丸であることがわかる。
四隅には央羽根をあしらい、アール・デコ風にまとめられている。直接登って調べることができなかったが、取り外した後のガラス、パテ等を調査すれば、製作に関係した工房などが浮かび上がる可能性は高い。
本屋の網入り厚版型ガラス、貴賓室のステンドグラスは、それぞれ傷みも少なく、ガラスの命は終っていない。取り外した後、厚く梱包されて倉庫の片隅に眠るのではなく、小田原のどこかに再び使われることを願ってやまない。
ガラスは光を透過させ、外気にふれてこそ、本来の美しさで輝く。からりと晴れた日だけでなく、曇った日、雨の日、湿度の高い日、風のある日、それぞれ違った色を見せてくれる。
人に見られることでガラスは輝き喜び、それをそのまま見る人に返してくれる。
ヨーロッパやアメリカ各地に残された古い聖堂のステンドグラスに、人々が癒されるのは、まさにその良い事例ではないだろうか。
古いガラスは壊してしまえば、二度と再び同じガラスは手に入れることはできないことを、つけ加えておきたい。−了。
|